一生の3割は布団の中で眠っています。
男性の平均寿命を84歳とすると、実に28年に相当します。
しかし以前の記事でも書きましたが、現代人、特に日本人は睡眠時間が短くなる傾向にあります。
睡眠不足によるの健康被害は表面化しづらく、特に見逃されがちです。
今回は不眠症についてまとめてみます。
不眠症の定義
西洋医学的には以下の四つに分類されます。
・入眠障害 寝つきが悪い
・中途覚醒 途中で目が覚める
・早朝覚醒 朝早くに眼が覚め以降眠れない
・熟眠障害 熟眠感がない
西洋医薬では、持続時間や効果発現速度の違う薬を組み合わせて使用します。しかし原因を治療しているわけではなく、薬の影響で翌日熟眠感がなく疲労感が残る人も多いようです。
東洋医学的には、五行の乱れで起きる睡眠障害であると定義されます。
五行とは体を構成する五つの重要な臓器をさし、心肺肝脾腎をに相当します。
睡眠には主に「心(しん)」が関わりますが、他の肝、脾、腎も影響を与えています。
心は血の循環により精神=神(しん)の安定に関わっています。また血の不足により心に障害が起きるとイライラするような熱症状が出現し眠れなくなります。
肝は血の貯蔵を担い、気血のバランスを調節し、血を浄化する作用を有します。これが滞ると不安になり、胸が苦しいといった症状が出現し眠れなくなります。
脾は栄養の吸収や胃腸の働きを調節します。機能が低下すると血が減り、心や肝に悪影響がでます。暴飲暴食やストレスの影響を受けやすく、胃に食物が溜まる「食滞(しょくたい)」がおきるためげっぷが出たり胃がむかむかします。
腎は水分の調節を行っているため、機能が低下し水分が不足すると腎陰虚(じんいんきょ)に陥ります。これは心や肝の機能を低下させてしまいます。高齢者ではこれが原因となる事が多いです。
治療方法
治療方法は以下が挙がります。
・西洋医薬
・漢方薬
・予防
西洋医薬
いわゆる睡眠薬です。
作用時間が短く立ち上がりが早い睡眠導入薬や、作用時間が長く朝まで効果が持続する長時間作用型等があります。
しかし先にも申し上げた通り、あくまで対処療法であり、常用はお勧めしません。高血圧症があるのに暴飲暴食をしながら薬を飲んでいるようなものです。
原因は他にあり、除けない場合にはやむを得ないこともあります。しかし長期服用による副作用は有名で、特に認知症の報告があります。
これはベンゾジアゼピン系での報告が多く、非ベンゾジアゼピン系も開発されているため全てではありません。しかしそう非ベンゾジアゼピン系は新しい薬剤ので、長期服用に関する報告はまだありません。
簡単に非ベンゾ系睡眠薬を御紹介します。
作用 GABAAR増強
超短時間作用型で残りにくい
作用 GABAAR増強
超短時間作用型で残りにくい
ベルソムラ(スボレキサント)
作用 オレキシン受容体拮抗薬
超短時間作用型だが中途覚醒にも効果があり
ロゼレム(ラメルテオン)
作用 メラトニン受容体作動薬
睡眠と覚醒のリズムを調節
デエビゴ(レンボレキサント)
作用 オレキシン受容体拮抗薬
スボレキサントと同様に睡眠維持効果あり
高齢者でより安全との報告
漢方薬
漢方薬には直接睡眠を誘発しません。
不眠の原因を解消し、自然な眠りを促す効果があります。そのため他の分野では原因に対する治療的な西洋医学より、この分野では東洋医学の方が原因に対する治療的な役割があります。
また睡眠の原因を除くのみならず、付随する冷えや疲れ、めまいなどにも効果があります。効果が弱い場合もありますが、睡眠薬を減量することも期待できますのでお勧めです。
漢方薬の選択は、患者の症状=症(しょう)によって使い分けます。
簡単に説明すると、実証とは、体力があり気や血が多く、虚証とはその逆です。
実証
気血水が過剰で滞り、基本的に体力のある方
黄連解毒湯 のぼせ気味、いらいら
柴胡加竜骨牡蛎湯 不安が強く、便秘あり
三黄瀉心湯 みぞおちの使え、更年期
中間~虚証
気血水が不足し、体力のない方
加味帰脾湯 心身の疲れ、血色が悪い
加味逍遥散 女性、のぼせや肩こり
不安、更年期
酸棗仁湯 心身の疲れ、精神不安定
抑肝散 子供の夜泣き 高ぶり
起こりやすい、イライラ
これらもほんの一部です。
各証によっては他にも様々な漢方薬が選択されます。そういう意味ではいわゆるordermade treatmentであり、非常に合理的ですね。
予防
不眠の原因を探し、環境調節や生活習慣の改善を行います。以下にざっくりと、不眠の原因になりうるものを列挙します。
・運動不足
・ストレッチ不足 基礎代謝の低下
・入浴習慣がない シャワーのみ
・遅寝遅起 睡眠リズムの乱れ
・環境要因 気温や音響、照明
・夜遅くのカフェイン摂取、冷たい水分の摂取
・長時間モニターを見る行為 スマホ、PC
・寝具の問題 枕や寝具の硬さ
・ストレス
・薬剤
・飲酒や過食
まとめると、運動習慣をつけて健康的な食事を心がけ、入浴後の十分なストレッチを行うことです。部屋や寝具を工夫し、快適な睡眠環境を整えるようにして下さい。
入浴後は部屋を暗くし蛍光灯や明るく光量の多いLEDを控え、室内灯にするとよいでしょう。風呂上りでも冷たい飲食をさけ、白湯や豆乳を飲むことをお勧めします。
パソコンやスマホは入浴後極力見ないようにし、食後の飲酒も控える必要があります。寝具に関してはいずれまた記事にします。
人生の3割を如何に快適に過ごすか、もっと注意を払ってもよいと思います。その工夫が残りの7割にいい影響がでるのは言うまでもありません。
健全な精神は健全な肉体に宿る、です。
良い睡眠を。
ではまた